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2/17 2013  メープルシロップ再び


Maple syrup  30年ほど前、日光に来たカナダ人観光客の女性と話す機会があって、メープルシロップの作り方をいろいろとお聞きしたことがありました。メープルシロップにとても興味があったからです。その後、山仕事をしていたお爺さんから「戦後の食糧不足の頃、山のモミジの樹液を採って楓糖という甘くて美味しい砂糖のようなものをつくった」という話も聞きました。
 そして15年ほど前、そんなことを思い出しながら2年連続で自宅近くの森に自生するイタヤカエデから樹液を採取してメープルシロップをつくりました。その時の様子は次にまとめてあります。
★1999/3/13 メープルシロップ、できました
★2000/4/16 メープルシロップ
 当時は全くノウハウもなく、ネット上の情報も現在のように豊富ではなかったので、採取方法や製造方法などはかなりいい加減。穴を開けて樹液を採ることなど想像もできなかったので、漆を採取するような切れ込みを幹につければいいのではと、かなりイタヤカエデには申し訳ないことをしてしまいました。それでもそれらしいメープルシロップができあがり、それなりに満足していたものでした。

 去年、何かのきっかけでメープルシロップを思い出して、ネットで情報を探していたところ、カナダのメープルシロップ関連グッズの通販サイトをみつけ、採取道具を購入してみました。今年はその初めてきた道具を使って久しぶりにメープルシロップを作ってみることにしました。

 採取時期(樹液が出始める時期)についても、ネット上にいろいろな情報がありましたが、「雪が残っている早春で、夜間の気温は氷点下になり日中が4〜9℃程度になる日に、樹液が出る」 という情報を信じて、こけこっこ家の百葉箱で観測してきた13年間の気温データをもとに、時期を考えます。この条件を満たすのは日光では1月初旬から断続的にあるのですが、その時期に樹液が出るとは考えにくいです。たぶん気温の日較差の前提として、積算温度(暖かさの積算量)も関係しているのではないかと考えています。
 どちらにしても1月は終わってしまいましたから、今年は2月9日から採取を始めてみました。採取時期についてはもう少し検証していきたいと思います。

イタヤカエデ  今年の冬は暖冬化傾向の近年の中でも久しぶりに寒く、積雪もまめにありました。まだ雪が残る山の斜面、左の写真では中央よりちょっと左側に大きなイタヤカエデがあります。直径50cm程度です。
 また、こけこっこ家の庭には30年前に小さな苗木を植えたイタヤカエデが直径35cmほどに育っています。右の写真です。
イタヤカエデ  今年はこの2本のイタヤカエデから樹液をいただくこととしました。イタヤカエデは生長が比較的早く、大木になるので樹液が採りやすいカエデです。他にもカジカエデやメグスリノキ、ウリハダカエデなどが大きくなりますが、近くにないのでイタヤカエデにしました。樹種によって味が異なるらしいので、いずれ他の樹種でも作ってみたいと思います。
 イタヤカエデの写真を数枚ご紹介しておきます。
    新芽      紅葉1   紅葉2 

 いよいよカナダ直輸入の採取グッズを取り付けます。幹に穴をあけてそこに差し込むことによって樹木内の圧力により樹液がこの道具から出てきます。左の写真のこの道具をスパイル(spile)といい、かつては金属製が主流だったようですが、現在ではこのような樹脂製のものが多いようです。
スパイル spile  さすがに伝統のある道具で、さまざまなノウハウが凝縮されていて良くできています。写真の右側を幹に開けた穴に差し込み、中央部の四角い部分を左からハンマーで打ち込みます。右側の先端には小さな穴が開いていてそこから樹液が左側に流れて出てくるしくみです。下にあるカギ形の部分はバケツなどをぶら下げるためのフックです。

ドリルで穴を開ける  次はイタヤカエデの幹に穴を開けます。さきほどのスパイルは7/16インチ用になっていますので、m法に換算すると直径11.1mmになります。写真のとおり打ち込む部分はくさび形になっていますから、多少の誤差は許容されるだろうということで、11mmのドリルビットで深さ5cmの穴を開けます。他にも5/16インチ(7.9mm)用のスパイルもあって、これにはなぜか Eco Spileという名称が付いています。何がecoなんでしょうね。
 穴は採取しやすい高さに開けます。自然の恵みの一部を分けていただくことに感謝の気持ちを込め、山の神様に一礼をします。

【スパイル販売サイト】日光自然工房

直径11mmの穴 スパイルを打ち込む
 暖かい時間帯ならば穴を開けるとすぐに樹液が噴き出してきますが、午後6時頃だったので寒いせいか何の反応もありません。
 そしてさきほどのスパイルをハンマーで打ち込みます。幹の中の圧力を逃がさないようにするため、できるだけ密閉できるように強く打ち込みます。

ペットボトルをぶら下げる ペットボトルをぶら下げる ペットボトルをぶら下げる  そして、フックにペットボトルをぶら下げます。
 写真左の50cmのイタヤカエデには3本、右の35cmには2本のスパイルを打ち込み、同じ数のペットボトルをぶら下げました。

 採取を始めた翌日の日中は暖かい日になり、16時で+5℃ありました。この暖かさに誘われたのか、樹液がポタポタと1秒に1滴くらいの割合で落ち、夕方までに約1Lたまりました。その様子を動画で記録してみました。
 樹液が落ちる様子【動画】 2月10日 16時 気温約5℃ 樹液が落ち始める


凍り付いた樹液  この時期の気候は良く変わります。前日まで穏やかな陽気で日中は10℃くらいに上がったかと思うと、翌日には寒気団が押し寄せて日中ですら0℃以上にならなかったり、雪が降り続いたり、その繰り返しで少しずつ春に近づいていく、そんな時期なのかもしれません。
 2月11日は寒い日で、前日からペットボトルにたまった樹液が凍り付いています。スパイルから流れ出る途中の樹液もつららになってしまい、ペットボトルの中の樹液もカチカチに凍ってしまい、こういうときは逆さにしても樹液を回収することはできません。(写真右)

 結局、2月10日から2月14日までの5日間で、2本のイタヤカエデから約12Lもの樹液をいただくことができました。

採取日 収穫量(ml) コメント
2月9日 採取開始
2月10日 1,000 晴れ 16時気温+5℃
2月11日 2,900 日中寒い
2月12日 450 日中も0℃以下。朝-9.5℃。寒い一日
2月13日 2,250 朝-2℃
2月14日 5,550 朝-5℃ 晴れ
合計 12,150


ビーカーで計量  さて、いよいよ回収した樹液からメープルシロップを作ります。手順は単純です。樹液を煮詰めるだけ。でも、どうも煮詰め方によって品質の差ができるようで、グラグラと沸騰させてはダメなようです。時間をかけて少しずつ水分を蒸発させていくことが必要らしいのです。 フィルターでゴミを除去

 寸胴の鍋に樹液を入れ、薪ストーブの上においてじっくりと蒸発させることにしました。最初に樹液の量を把握するためにビーカーで計量します。次に入り込んだ木くずやゴミを除去するためにコーヒーのフィルターで樹液を濾過します。

 そして薪ストーブの上でじっくりと時間をかけて煮詰めます。煮詰める濃度はネット上の情報では40倍くらいがほとんどですが一部50倍ということろも。30年前にカナダ人から聞いたときは30倍という話でした。カナダケベック州のメープルシロップ品質基準では、煮詰める割合ではなく、製品の糖度が66%になるまで煮詰めるとあります。
ストーブで煮詰める  糖度計もないので、ここは最も情報が多い40倍を目安に煮詰めることとしました。つまり、採取した樹液が12,150mlですから40で割ると、仕上がりは303mlを目標に、ということになります。

 何日かかけてじっくりと煮詰め、ようやく300mlに濃縮されました。あの12Lの樹液がたったこれだけ?という量ですが、ちょっとなめてみるとかなり甘いです。糖度計があれば甘さの指標をお伝えできるのですが、こけこっこの感覚でお許しください。
 透明感がないのがちょっと気になります。
300mlのシロップ完成

 カナダのメープルシロップ品質基準は、5段階のグレードに分けられています。その中でも最も早い時期に採取された樹液(一番搾り)は、最高のAAランクでエキストラライトのグレードとなります。グレードに関わらず糖度はいずれも66%だそうですが、光の透過率が高い順にランキングされており、ちなみにAAグレードは透過率75%以上、グレードがさがるごとに透過率が下がり、Dグレードでは27%以下、つまり高いグレードほど薄い色、低いグレードほど濃い色になるのだそうです。そしてグレードが高いほど見た目が薄く、繊細であっさりした風味を持っているとか。

瓶詰めした翌朝  ビーカーに入った300mlのシロップは濁っています。とても透過率75%なんかクリアーできません。しかし、瓶詰めして翌朝見てみると、透過率を妨げていた何らかの不純物が沈殿し、上澄みは美しい黄金色になっていました。
 ちなみに、手前の瓶は50ml入り、奥は30mlです。合計すると280mlになりますが、残った20mlはしっかりと味見をしました。甘さは一級だと思います。また味わいもあっさりとした上品な甘さになりました。

 たぶん今回のメープルシロップは日光では最も早い時期に採ったものだったのだと思います。15年前に作ったメープルシロップは採取時期がもっと遅く、できあがった色もずっと濃い色でした。
 でも、沈殿させないと透明にならないということは、いずれかの工程で不純物を取り除く必要があるということです。樹液を単に煮詰めるだけ、という単純な作業の中にも、ノウハウを蓄積しないと高品質なものは作れないということなのかもしれません。まだまだ奥は深いです。

 一番搾りはこれで終わりかもしれませんが、この2本の木から、今日も4Lほどの収穫がありました。二番搾りの工程に突入です。
 最後に、イタヤカエデが自生する森を背景に一番搾りシロップをパチリ。

記念撮影