Nikko Today TOP

4/22 2000 滝尾の森とスギタニルリシジミ


 この季節は晴れると、とても気持ちの良い時期です。昨晩の大雨とうって変わって今日はちょっと風が強かったものの暖かい日差しと霞がかかった空気が春らしさをとても上手に演出しているような日になりました。
 そんな春の暖かい太陽に誘われるように、滝尾神社(たきのおじんじゃ)参道の森に行ってきました。

 世界遺産の二社一寺(東照宮など)は、神橋が架かっている大谷川(だいやがわ)と稲荷川の合流部に立地しています。その稲荷川に沿った滝尾神社までの参道一帯は樹齢が千年を超すものもあるスギの巨木が森をつくっています。
 世界遺産として世界が認めた日光の価値は、二社一寺の建造物だけではありません。建物と一体となったスギの巨木の森が醸し出す幽玄な雰囲気や景観がとても大きな要素だと思います。
 この巨木の森はもともと人工的に植えられたスギが「宗教」に守られ育って出来上がったものです。もともとスギの自然植生がなかった日光では、スギの巨木の森は厳密な意味では純粋な自然環境ではないはずです。でも、千年の歴史を経て育った森は奥日光の原生林や東北地方のブナの森と同じような原生のものだけが持つ独特の雰囲気を醸し出します。
 スギの人工林、というと単調な自然環境の代表的な例ですが、滝尾の森の「スギ原生林」はとても多様な自然環境を保って安定しています。高木層にスギ・トチノキなど、中木層にイヌブナ・ブナ・イヌシデ・アワブキ・カツラなど、低木層にマンサク・ニシキウツギなど、とても「人工林」とは思えない豊かな自然環境です。

 そして、そこには多くの動植物が育まれています。春になると日中はオオルリやキビタキなどの多くの野鳥が鳴き、夜になるとムササビの「ギギギギギィィ」という鳴き声、林床にはコアツモリソウ・ウスバサイシン・ヤマエンゴサクなど豊かな森にしか見られない植物が豊富です。
 そして、こけこっこが最も愛する蝶の一つが滝尾の森に棲んでいます。スギタニルリシジミです。羽の裏は渋い銀色の光沢をもつ地色に黒の斑点、表はこれまた渋く深い青に輝く羽。日本にはこのブルーに輝く羽を持つ蝶の仲間がたくさんいますが、その中でもひときわ地味で渋く、美しい蝶だと思います。
 このスギタニ君の幼虫は滝尾の森にあるトチノキの花を食べて育ちます。トチノキの花が咲く前に成虫が生まれ花に卵を産み、幼虫はその花で育ち、花が終わる頃さなぎになります。そして夏・秋・冬と1年の大半をさなぎで暮らし、翌年のこの時期にまた成虫が生まれます。

 前置きが長すぎましたが、今日はスギタニ君に会ってきました。3シーズンさなぎでじっとしていたのを取り返すように春の森の日溜まりを精一杯飛び回っていました。雄どおしがなわばりをもち、他の雄がくると2匹で絡み合い、しばらくすると地面に近いところで羽を休めます。1年に1回、この時期にしか会えませんが、今年も元気な姿が見られました。
 奥日光の森の蝶、ゼフィルスを以前このページでご紹介しましたが、ゼフィルスほど派手さはないスギタニ君は日光の愛すべき自然の申し子だと思います。

 そして、このようなスギタニルリシジミなど多くの動植物を育む滝尾の森の環境がずっとこのままでいてほしいと望むばかりです。