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 日光のゼフィルス

9/2 2007 文章加筆・写真追加
7/9 2006 文章加筆・写真追加
8/2 2005 初稿

アイノミドリシジミが集まる奥日光のミズナラ・ハルニレ林  シジミチョウ科の中のミドリシジミなどの一群は「ゼフィルス」と呼ばれています。ゼフィルスとはギリシャ神話の西風の精ゼフィロスが語源で「そよ風の精」の意味があるそうです。
 その名にふさわしく、ゼフィルスはいずれも美しい翅をもち、♂が金緑色〜銀青色に輝くミドリシジミ類のほか、銀色や朱色など鮮やかな輝きをもった種類が多く、裏面も美しい文様を持つものもいて、ゼフィルスはいずれも小粒ながらきっちりと美しさを主張する種類で構成されています。蝶を愛好する人は必ずといっていいほど、このゼフィルスの美しさに魅せられます。こけこっこもその例外ではなく、森に育まれながら静かに生きるゼフィルスはとても魅力的な蝶の仲間と感じています。
アカシジミ  世界的には極東アジアに多くのゼフィルスが集中していて、日本〜中国南部〜ヒマラヤはゼフィルスのメッカといってもいいと思います。日本には北海道から九州まで25種類のゼフィルスが棲息していて、落葉広葉樹林を主な住処とするグループと常緑照葉樹林を住処とするグループの二つに大別できます。日光ではブナ、ミズナラ、コナラなどの落葉広葉樹林のグループ、15種類が棲息しています。

エゾミドリシジミ アイノミドリシジミ  すべてのゼフィルスの住処は森の中です。種類によって幼虫が食べる植物は異なりますが、日光ではブナ、ミズナラ、コナラ、クヌギなどのブナ科植物のほか、サクラ類(バラ科)、オニグルミ(クルミ科)、ハンノキ・ヤマハンノキ(カバノキ科)、コバノトネリコ・イボタノキ(モクセイ科)などです。いずれも日光の森を代表する樹木で、まさに森の蝶ゼフィルスはそれらの新芽を食べ森の中に静かに棲息しています。
 いずれも1年に1回、梅雨時(6月〜7月)に成虫となり、夏から秋にかけて翌年の新芽に産卵します。そして卵のまま越冬し、翌春、木々の芽吹きとともに孵化し、葉が柔らかいうちに幼虫は成長して、また梅雨時に羽化して美しい羽を見せてくれます。

卍巴になって争うジョウザンミドリシジミ ハルニレの先端で羽を開いて占有行動中のアイノミドリシジミ  ゼフィルスの♂はほとんどが自分の縄張りを誇示するため、きまった時間にディスプレー飛翔をします。種類によってその活動する時間帯は異なり、早朝に活動する種類や日中、夕方などさまざまです。その中でもとくにミドリシジミ類の♂は縄張り意識がとても強く、このページの最初の写真のような森の日だまりになる場所にある突き出た枝や葉に静止し、輝く翅を精一杯開き自らを誇示します(=占有行動)。枝先などに止まり占有行動中の♂の近くに小石を投げるとその石を敵だとみなして、やはり追いかけます。この時期に多いアキアカネが飛んできても、スズメバチが飛んできても同じように追いかけます。
 そしてそこにライバルである別の♂がやってくると追い払うため、卍巴(まんじともえ)になってその♂が断念するまでいつまでもグルグルと回っています。なぜこのようなことをするかというと、卍巴のときに羽ばたく早さを競っているそうで、羽ばたく早さで勝敗が決まるという研究結果もあります。
でも、そんなことをしているうちに、別な♂がやってきて森のベストポジションを奪われてしまうこともあります。
ウラキンシジミ
 森を生活の拠点にしていることや限られた時期にしか見られないことなどから、ゼフィルスを観察するためにはその生態を知らないとなかなか見ることができないかもしれません。でも、一度その生態がわかるとさまざまな場所で見かけられる蝶ということがわかると思います。

 ここでは、こけこっこが日光で観察したものや、文献で日光に棲息が確認されている15種類のゼフィルスを種類ごとにご紹介します。写真の中には日光で撮影できなかった種や、全く撮影できていない種も含まれていますが、そのようなゼフィルスについては思い出話でお茶を濁しております。


1.ウラゴマダラシジミ Artopoetes pryeri

 日光ではあまり見られないゼフィルスです。幼虫はイボタノキやミヤマイボタを食べます。どちらかというと平地のゼフィルスで、平地では6月上旬頃から飛び始めますが、日光では7月上旬頃からになるようです。奥日光ではかなりレアな種類になるようですが、採集記録があります。
 右の写真は、自宅の庭に飛んでいたのを見つけて撮影したものですが、このあと、近くのイボタノキの周りをウロウロと飛び回っていました。
 大柄のルリシジミという感じで、飛んでいると水色がきれいです。

 【参考】   イボタノキ(蕾)   ミヤマイボタ(実)

 ウラゴマダラシジミ
7/5 2003
日光市街
alt: 730m
 ウラゴマダラシジミ
7/5 2003
日光市街
alt: 730m
2.ウラキンシジミ Ussuriana stygiana

 日光市街地から奥日光まで広く見られるゼフィルスです。幼虫はコバノトネリコ(アオダモ)を食べると言われています。
 広く分布しているものの、目立たない地味な色をしているせいか、こけこっこは2005年に初めて日光で見ることができました。写真には写っていませんが、羽の表側は黒褐色、そして裏面が名前のとおり金色に近い色なので、飛んでいるといぶし金と黒が交互にチラチラと見えてすぐに山の背景にとけ込んで見失ってしまいます。
 写真上2枚は♀。下1枚は日光ではありませんが♂で♀より渋い金色です。
 上2枚の写真は、飛んでいるのを見かけ、とまる場所を注意深く見ていて、止まっているノリウツギの枝を左手で慎重に引き寄せて片手でシャッターを切りました。
 下2枚の写真は珍しく花に止まる本種をみかけました。ヨツバヒヨドリでの吸蜜です。
 【参考】   コバノトネリコ(アオダモ) (花)
 ウラキンシジミ
7/18 2005
日光雲竜渓谷
alt: 1240m
 ウラキンシジミ
7/18 2005
日光雲竜渓谷
alt: 1240m
 ウラキンシジミ
7/10 2003
那須町
alt: 1050m
 ウラキンシジミ
7/24 2007
日光雲竜渓谷
alt: 1200m
 ウラキンシジミ
7/24 2007
日光雲竜渓谷
alt: 1200m
3.オナガシジミ Araragi enthea

 幼虫が食べるオニグルミが生育する川沿いで見られます。奥日光ではオニグルミは見られませんが、日光市内では大谷川や稲荷川などの大きな河川の他にも、田母沢、安良沢などの沢沿いにもたくさんのオニグルミが分布しています。
 成虫は他のゼフィルスより1週間ほど遅れて出始めます。日光市内では7月下旬頃から見られます。成虫は食樹のオニグルミのそばを離れることなく、日中はオニグルミの葉陰で静止していたり、気が向くと写真のように地味ながらシックな翅表を見せてくれますが、夕方近くになるとオニグルミの梢でたくさんのオナガシジミが飛び、2頭が絡み合ったり、翅を開き縄張りを誇示しています。
 2006年、2007年はゼフィルス全般が少なく、本種を全く見られませんでした。
 名前のとおり尾(=尾状突起)が長く、下から2番目の写真はその長さがよくわかると思います。尾の先の白い部分がきれいなアクセントです。
 オナガシジミ
7/23 2005
日光市街地
alt: 600m
 オナガシジミ
7/23 2005
日光だいや川公園
alt: 440m
 オナガシジミ
7/23 2005
日光だいや川公園
alt: 440m
 オナガシジミ
7/23 2005
日光市街地
alt: 600m
 オナガシジミ
7/23 2005
日光市街地
alt: 600m
4.ミズイロオナガシジミ Antigius attilia

 平地に多く見られるゼフィルスです。
 春のコナラ林  日光ではウラナミアカシジミとともに今市市寄りの標高500m前後のコナラ林で多くを見ることができます。こけこっこは日光だいや川公園でよく撮影します。市内にも幅広く分布はしていますが、それほど数が多いものではありません。奥日光にもいるとは思うのですが見つかってはいないようです。
 裏面の写真しかありませんが、表側はオナガシジミと同様、黒茶褐色で、裏面が明るい白なので、飛ぶと表の黒と裏の白がチラチラとしてきれいです。
 幼虫はコナラの葉を食べるといわれており、朝はコナラの下草などに止まったり、日中はコナラの葉などに静止しています。

 【参考】   コナラ(新芽)   コナラ(紅葉)

 ミズイロオナガシジミ
6/20 2004
日光市街
alt: 450m
 ミズイロオナガシジミ
6/20 2004
日光市街
alt: 450m
 ミズイロオナガシジミ
6/23 2007
日光市街地
alt: 460m
 ミズイロオナガシジミ
6/27 2005
日光市街地
alt: 450m
5.ウスイロオナガシジミ Antigius butleri

 日光では市街地から奥日光にかけて広く分布します。幼虫はミズナラやカシワを食べると言われていますが、日光にはカシワが自生していないので、たぶんミズナラを食べているものと思われます。広く分布しているもののあそこに行けば必ず見られる、という種類ではなく、たまたま見かけるという感じの出会いが多いゼフィルスです。
 オナガシジミやミズイロオナガシジミと同様、翅表は黒茶褐色ですが、裏面は朱色の紋と黒褐色の斑紋が美しく調和しています。森の中で突然出会うと、ドキッとする美しさをもったゼフィルスです。やはり長い尾があります。
 一番下の写真は、珍しく翅を開いたところです。辺りではアイノミドリシジミがたくさん飛ぶ中、ミズナラ林にひっそりと佇んでいました。

 【参考】   ミズナラ林   ミズナラ(紅葉)

 ウスイロオナガシジミ
7/9 2005
日光細尾
alt: 1090m
 ウスイロオナガシジミ
7/30 2006
奥日光光徳
alt: 1430m
 ウスイロオナガシジミ
7/30 2006
奥日光光徳
alt: 1430m
 ウスイロオナガシジミ
7/30 2006
奥日光光徳
alt: 1430m
6.アカシジミ Japonica lutea

 日光では広い範囲で最も数多く見られるゼフィルスです。今市市よりの平地林から日光市街地、さらに奥日光まで分布しています。幼虫はコナラ、ミズナラなどを食べているようです。
 日光市街地では6月中旬頃から見られ、6月下旬頃になると夕方コナラ林の梢で多くのアカシジミが飛ぶのが見られます。夕暮れのコナラ林の深緑色を背景に、朱色のアカシジミが優雅に飛ぶ様子はとても美しいものがあります。
 早朝は下草に降りていることが多く、写真はすべて朝撮影したものです。
 アカシジミは最も見る機会の多いゼフィルスですが、2006年、2007年はウラナミアカシジミとともに、日光市内どこでも見ることができませんでした。その前の年まであれほどたくさん飛んでいたのに一体どうしてしまったのか、大きな環境の変化のせいなのか、どこかで細々と生きながらえてまた以前のように夕方優雅な姿を見せてもらいたいものです。
 アカシジミ
6/12 2005
日光市街地
alt: 450m
 アカシジミ
6/10 2005
日光市街地
alt: 450m
 アカシジミ
6/20 2005
日光市街地
alt: 450m
7.ウラナミアカシジミ Japonica saepestriata

 前記のミズイロオナガシジミと同様、平野部で多くを見られるゼフィルスです。日光では今市市寄りのコナラ林で見ることができますが、奥日光での記録はありません。幼虫はクヌギ、コナラなどを食べますが、日光にはクヌギの自然植生がない(たぶん)ので、日光ではコナラを食べているものと思われます。
 ご覧のとおり、裏面はゼブラ模様なので他の種類と間違えることはまずありません。表面は一面朱色でアカシジミよりさらに朱色が広がっていてアカシジミと同様、夕方飛翔している姿は美しく優雅です。
 やはり早朝は下草に降りていることが多く、写真は朝撮影しました。
 アカシジミとともに、2006年、2007年は見ることができませんでした。
 ウラナミアカシジミ
6/21 2005
日光市街地
alt: 450m
 ウラナミアカシジミ
6/21 2005
日光市街地
alt: 450m
8.ウラクロシジミ Iratsume orsedice

 日光では市街地から中禅寺湖畔などにかけての沢沿いに広く分布しています。幼虫はマンサクを食べるので、マンサクの分布に依存します。戦場ヶ原や湯元方面にはマンサクがないのでウラクロシジミも見つかっていません。
 日光市街地では6月下旬頃から成虫を見ることができます。
 こけこっこの毎年のこの時期の楽しみは、夕方活発に飛ぶウラクロシジミの♂を観察することです。ビールと双眼鏡を持って自宅の屋根に上ると(地上10mくらい)、ちょうどゼフィルスが飛ぶ樹木の上がよく見えてます。ゼフィルスの中でも飛ぶ姿が最も美しいと言っても過言ではないと思います。名前のとおり裏面は茶褐色で暗い色ですが、♂の表面は銀白色の輝きを持つとても美しいゼフィルスです。ちょうど表裏の関係がミズイロオナガシジミとは逆になりますが、暗い裏面とピカピカ光る銀白色の表面が交互に輝き、日没前のダークグリーンの背景にその輝きがひときわ映えます。2006年はその屋根からメスアカミドリシジミを撮影しようとしたところミズナラの葉陰に休む♂を見つけ、ようやく日光で撮影することができました。
 飛ぶ姿で、最もインパクトが強かったのがキリシマミドリシジミの♂。常緑のアカガシなどを食べるゼフィルスなのでもちろん日光にはいませんが、箱根で見たこの♂の輝きは初めて経験する美しさでした。キリシマミドリの♂は表面が銀緑色、裏面が銀白色なので、金緑色のかたまりがものすごい早さで飛びまわっていました。
 ウラクロシジミはキリシマミドリとは異質の輝き方ですが、両者ともそれぞれ違った魅力があります。冷温帯林のウラクロと暖温帯林のキリシマミドリ、それぞれが生きる環境に相応しい輝きをもっていると感じています。

 【参考】  マンサク   (花芽)  (花)  (葉)  (紅葉)

 ウラクロシジミ(卵)
1/25 2004
日光市街
alt: 660m
 ウラクロシジミ
6/29 2006
日光市萩垣面
alt: 730m
 ウラクロシジミ
7/17 2005
福島県西郷村
alt: 800m
9.ミドリシジミ Neozephyrus taxila

 関東平野のあちこちでみかけるハンノキ林にはたくさんのミドリシジミが見られますが日光ではミドリシジミは少数派のゼフィルスになります(だからいい写真がありません)。幼虫はハンノキやヤマハンノキを食べると言われています。日光にはハンノキが自生していませんが、ヤマハンノキは日光の至る所に分布しています。しかしハンノキ林で見られるようなミドリシジミの大群を見られず、たまたま出会うゼフィルスという感じです。ハンノキに対しより強い嗜好を持っているのでしょうか。
 ♂表面はメタリックグリーンに美しく輝きますが、♀の表面は黒茶褐色が基本です。でも♀表面の模様によって4つの型に分けられています。
 A型・・・前翅にオレンジ色の紋が出る
 B型・・・前翅に紫色の紋が出る
 AB型・・前翅に上記両方が出る
 O型・・・なんの紋も出ない
 これは、ミドリシジミ(狭義)だけではなくミドリシジミ類(広義)の♀には共通の型の呼び名になっていますが、この4型すべてが見られる種類はミドリシジミ(狭義)だけかもしれません。
 ミドリシジミ
7/17 1999
日光市街地
alt: 710m
 ミドリシジミ
8/15 2006
日光市街地
alt: 720m
10.メスアカミドリシジミ Chrysozephyrus smaragdinus

 日光では市街地から奥日光にかけて広く分布するゼフィルスです。幼虫はサクラ類を食べており、こけこっこ家の庭に自生しているチョウジザクラから卵を発見したこともありました。卵は次種アイノミドリシジミとともにゼフィルスの中では大きな方(とはいっても1mmオーバー)で1枚目の写真のように白くハッキリと目立ちます。
 サクラは日光の山にはいたるところで見られますが、メスアカミドリシジミが見られるのは主に沢沿いの環境です。♂はそんな沢沿いの突き出た木の葉などに止まり日中(お昼頃〜夕方)、占有活動をします。♂が緑色に光るゼフィルスはすべて占有活動をして、近くに寄ってくる虫や同じ種類の蝶を追い払います。2006年の6月下旬の午後2時頃、庭を見たら、ピカピカ光る緑色のゼフィルスが2頭、卍巴になって回っていました。その後分かれて上の方に止まったので、屋根に登り撮影したのが右の4枚の写真。まだ羽化したばかりのようでとても新鮮な輝きを放っている♂でした。
 メスアカという名のとおり、♀は前翅表面に朱色の大きな紋があります。前記の♀の4種類の型のうち、A型の赤紋が発達した形になります。北にいくほどその紋が小さくなる傾向があり、一番下の写真は北海道知床の♀です。(残念ながら本州産の写真がありません)
 下から2枚目の写真はずいぶん古い写真ですが、当時使っていたカメラは標準マクロレンズしかなかったため、かなり近づいて撮影しています。いいところに止まったので夢中で撮影していると足に痛みを感じて見るとクロスズメバチがしっかりと足を刺していました。巣が近かったらしいのですが、カメラを構えているため手で追い払うわけにもいかず刺されるがままで痛い思いをしながらの撮影でした。余談になりました。

 【参考】   チョウジザクラ(花)

 メスアカミドリシジミ(卵)
11/14 2004
日光霧降
alt: 790m
 メスアカミドリシジミ
6/29 2006
日光市萩垣面
alt: 730m
 メスアカミドリシジミ
6/29 2006
日光市萩垣面
alt: 730m
 メスアカミドリシジミ
6/29 2006
日光市萩垣面
alt: 730m
 メスアカミドリシジミ
6/29 2006
日光市萩垣面
alt: 730m
 メスアカミドリシジミ
7/26 1974
奥日光光徳
alt: 1430m
 メスアカミドリシジミ
7/19 2001
北海道知床
alt: 170m
11.アイノミドリシジミ Chrysozephyrus aurorinus

 日光では市街地から奥日光にかけて分布が確認されているゼフィルスです。しかし日光市街地では数が少ないせいか成虫を見かけたことはありません。
 日光市街地にあるこけこっこ家の近くのコナラの大木を伐採したので、もしかしたらと思って卵を見つけたら20mくらいのコナラ大木の一番先の方で10卵ほど見つけました。でもこれはレアケースで幼虫は主にミズナラを食べるため、ミズナラ林の多い奥日光がアイノミドリシジミの本拠地という気がします。

ミズナラ・ハルニレ林  ♂の活動時間は朝に限られています。こけこっこが30年来通っている光徳の森(左の写真)での観察では、天気の良い7月下旬、8:00頃から♂がズミやハルニレの葉先で占有行動を始めます。8:30〜9:00頃がピークで多くの♂が卍巴になって争ったり、ベストポジションには次から次へと別の♂が飛んできます。そして9:00を過ぎる頃から徐々にその数が減ってきて、同時にミヤコザサやハルカラマツなどの下草の葉にも止まるようになります。そして9:30になるとぱったりと見かけなくなります。もっともこの時間帯はその場所に太陽が射し込んでくる時間に影響されるようですから、場所によって違いがあることと思います。
 ♂の表面の輝きは日光のミドリシジミ類の中では最も強く、見る角度によってはギラギラとさえ見えるほど輝きます。

 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/18 2005
奥日光光徳
alt: 1430m
 アイノミドリシジミ
7/10 2003
那須町
alt: 1050m
12.オオミドリシジミ Favonius orientalis

 日光にも分布しているという記録がありますが、こけこっこは日光で見たことがありません。だから写真もありません。ウラナミアカシジミやミズイロオナガシジミなどと同じでどちらかというと平地のゼフィルスです。幼虫は主にコナラを食べています。
 中学生の頃(30年以上前)、ゼフィルスという存在を初めて知った頃、宇都宮近郊の沼の近くでオオミドリシジミが採れると先輩から聞いて、学校が終わると自転車で毎日のように長い竿を持って採集にいったことを思い出します。近くにクリ畑があってその花によく集まっていました。その頃、ミドリシジミ(広義)はとても少なくて珍しい種類ばかりで絶対に採れないと思っていたので、オオミドリシジミの♂を初めて採集して表面の緑色の輝きを見て、とても興奮した思いが甦ります。
13.ジョウザンミドリシジミ Favonius taxila

 日光では市街地から奥日光にかけて広く分布しているゼフィルスです。アイノミドリシジミと同じく市街地の記録は少なく、標高1000m以上の地域や奥日光のミズナラ林などで数多く見ることができます。幼虫はミズナラを食べます。
 活動時間はアイノミドリシジミよりちょっと遅めになりますが、天気の良い午前中はやはり♂が活発な占有活動を行います。上から2番目の写真のように見通しのきく枝先などに翅を広げて静止し、別な♂がやってくると一番下の写真のようにグルグルと卍巴になって争います。
 前種オオミドリシジミ、次種エゾミドリシジミと同属(Favonius)でどちらかというと北方系のゼフィルスだそうで、雄の輝き方はメタリックブルーの輝きを持ちます。一方アイノミドリシジミやメスアカミドリシジミは、照葉樹林に棲息するキリシマミドリシジミやヒサマツミドリシジミと同属(Chrysozephyrus)で、南方系のゼフィルスと言われておりメタリックグリーンの輝きをもっています。
 ジョウザンミドリシジミの♂の占有活動はアイノミドリシジミと比べても比較的低い位置で行われるため、写真には撮りやすい種類です。
 枝先で占有行動
7/8 2006
日光市細尾
alt: 1190m
 ジョウザンミドリシジミ
7/10 2005
日光細尾
alt: 1100m
 ジョウザンミドリシジミ
7/10 2005
日光細尾
alt: 1100m
 ジョウザンミドリシジミ
7/10 2005
日光細尾
alt: 1100m
 ジョウザンミドリシジミ
7/10 2005
日光細尾
alt: 1100m
 ジョウザンミドリシジミ
7/10 2005
日光細尾
alt: 1100m
 ジョウザンミドリシジミ
7/10 2005
日光細尾
alt: 1100m
 ジョウザンミドリシジミ
7/10 2005
日光細尾
alt: 1100m
14.エゾミドリシジミ Favonius jezoensis

 日光では前種ジョウザンミドリシジミとほぼ同じ分布をしています。幼虫はやはりミズナラを食べ、奥日光のミズナラ林では多くの本種をみることができます。
 ♂の占有活動時間は、アイノミドリやジョウザンミドリが活動した後、午後活動します。盛夏の最も暑い時間帯に活動するため、見るチャンスは意外に少ないものです。これらの写真も午後2時頃、西日を浴びながら汗だくになって撮影しました。
 エゾミドリシジミはFavonius属の中でも青の輝きが強い方で、短い尾状突起(しっぽのこと)や直線的な前翅の形など、こけこっこが好きなゼフィルスのひとつです。
 エゾミドリシジミ
7/8 2006
日光市細尾
alt: 1190m
 エゾミドリシジミ
7/18 2005
日光雲竜渓谷
alt: 1000m
 エゾミドリシジミ
7/18 2005
日光雲竜渓谷
alt: 1000m
 エゾミドリシジミ
7/18 2005
日光雲竜渓谷
alt: 1000m
 エゾミドリシジミ
7/18 2005
日光雲竜渓谷
alt: 1000m
 エゾミドリシジミ
7/18 2005
日光雲竜渓谷
alt: 1000m
 エゾミドリシジミ
8/21 2004
奥日光光徳
alt: 1420m
15.フジミドリシジミ Sibataniozephyrus fujisanus

 日光では市街地から奥日光にかけてブナやイヌブナが生育しているところで見られます。日本のゼフィルスでブナを食べるのは本種だけで、成虫はブナのそばから離れないことや、なかなか下に降りてこないので、近くで見ることはもとより、写真に撮るのは至難の業です。そんなわけでまだ撮影したことはありません。
 ずいぶん前になりますが8月上旬頃、尾瀬至仏山の山頂付近のハイマツの葉上で羽を開いて止まるフジミドリシジミの♂を見たことがありました。上昇気流で吹き上げられてくるらしく、ハイマツの深緑色に水色に輝くフジミドリの色は鮮烈な印象として残っています。
 もう一つ思い出話ですが、高校生の頃、檜枝岐(福島県)に行ったとき、深いブナの森の中にポッカリと明いた空間でフジミドリ♂がさかんに飛んでいるのを見つけたことがありました。そのとき初めて見たのですが最初はルリシジミだとばっかり思っていました。でもよくよくみるとなんか飛び方や色がちょっと違うようだし、もしやと思い、5mの竹竿の先に着けたネットを振り回して空中戦で採ったのがフジミドリでした。当時は採集に夢中で、その場所に3時間ほどねばりいずれも空中戦で3♂を採集し、大いに満足して帰ってきたことがありました。遠い昔の7月9日の出来事です。

フジミドリが止まるブナ  さて、その後フジミドリに出会うこともなく、ウン十年が過ぎた今年、奥日光に近い標高1200mくらいの尾根のブナ林でフジミドリに出会うことができました。
 左のブナの写真の梢近くに4〜5頭のフジミドリシジミの♂が飛んでいました。フジミドリが数頭、どこかに写っているはずです。
 このとき、フジミドリでも飛んでいないかなと考えながら50mほど離れていたこのブナをボーッと見ていたら、まるでルリシジミのような蝶がチラチラと飛んでいるのが目に入ってきて、とっさに高校生の頃見たルリシジミ風のフジミドリの飛び方を思い出しました。そして急いで双眼鏡で観察したところ、やはりフジミドリでした。午後1時過ぎ、梢近くをちらちらと飛び回り、すぐに葉先に止まります。そして羽を全開にして占有活動をしているようです。別な♂が飛んでくるとすぐに飛び立ち追い払おうとしますが、他のミドリシジミ類に見られるような卍巴までには至りません。
 久しぶりに見られたフジミドリシジミは7月9日、高校生の頃初めてブナの森で格闘した日と同じ日でした。しばし時間を忘れて観察してしまいました。

 【参考】   ブナ林(中禅寺湖畔)   ブナ(紅葉・全体)   ブナ(紅葉)