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8/26 2001  女峰山の花たち



−写真をクリックすると別ウィンドーに写真が拡大されます−

 もはや、Newsではありませんが、7月7日〜8日にかけて同好の方々と小屋泊まりで女峰山に行ってきました。15年ぶりです。天気にも恵まれ、さまざまな花に飾られた美しい女峰山を堪能することができました。
 こんなことがあった、という記録として今更ながらですがご紹介したいと思います。

戦場ヶ原から見た男体山


第1日目(7月7日)
 雨、という天気予報にも関わらず、拍子抜けするほど空が青く抜けた快晴となった。
 いろは坂をのぼり、戦場ケ原からは写真右のように、男体山がくっきりと見えている。光徳を経由して裏男山林道で志津小屋の近くをとおり、さらに奥に入る。空はどこまでも晴れている。

馬立から見える女峰山  林道沿いにはササ類が繁茂し、メボソムシクイやウグイスのさえずりが聞こえる。「これ、なんていう蛾」といつも聞かれるジャノメチョウの仲間、クロヒカゲがたくさん飛びまわっている。

気圧が下がりカップ麺がはち切れそう  9:45 馬立(うまだて)に到着。標高1,800mあるため、下界で買ってきたカップ麺が破裂しそうなくらいふくらんでいる。準備をして10:00に重いザックをもって出発する。今回は無人山小屋1泊で食料やシュラフなど荷物が多い。
 コースは、最初一気に下り、大きな沢を横断する。この沢は女峰山山頂のガレから続いている大きな沢だ。水は流れていない。沢をわたるといよいよ登り道が始まる。サラサドウダンの花が迎えてくれる。あたりはコメツガやトウヒの森のコースで樹脂のツーンとする亜高山独特の匂いが心地好い。森の中ではルリビタキがあの独特な哀愁のあるさえずりでわれわれを迎えてくれる。
 標高1900mくらいからハクサンシャクナゲの豪華絢爛な花が咲く。ハクサンシャクナゲと背景の霧はまるでヒマラヤ山中を思わせる。その花の蜜を求め、コチャバネセセリが集まる。

 標高が高いものの天候に恵まれ、汗だく。でも沢から吹きあがってくる風はさすがに涼しい。
コメツガの暗い森の下にはベニサラサドウダンの緑に溶け込むような透きとおる赤や、林床にはマイズルソウやゴゼンタチバナの花が静かに咲く。また花を終えたアズマシャクナゲの群落もきれいだ。
 途中、樹上でさえずるルリビタキを観察したり、花々の写真を撮りながらコメツガの森をのんびりと2時間ほど歩く。

この周辺で唯一の水場  12:00、林がとぎれ、明るいガレ場が見えてきた。この周辺で唯一の水場だ。このあたりからミヤマハンノキが出現。いよいよ標高が高くなってきたことを実感する。ちょっとお腹がへってきた。 ここまでくれば今日、泊まる唐沢小屋までもうすぐ。なんか急に元気になる。おまけにこれまで圏外だったdocomo の携帯電話のアンテナが3本立ち。(その後使えたのはここだけだった)
 水場で甘くおいしい水をたらふく飲んで休憩し、2日分の水を確保する。この水場にはこれから向かう小屋から20分程度で戻れるから、水が不足したらまた汲みにくればよいのだが、今頑張って後で楽しようと、4l=4kgの水をザックに収納する。

唐沢小屋  水場からの急斜面を20分、12:30今夜の宿、唐沢小屋到着。ちょっと雲がでてきた。
 無人の避難小屋だから、今晩何人の登山者が泊まるか想像もつかないが、今のところ誰もいない。小屋に荷物を置き、外でちょっと遅い昼食。ぬるくなったビールが妙においしい。
 小屋は、標高2,240m、オオシラビソとトウヒなどに囲まれた静かな環境にある。ルリビタキの静かなさえずりがこだまし、カエデの仲間、オガラバナの花が針葉樹の森を背景にひっそりと咲く。
小屋から山頂へ。ガレ場は雲の中。  昼食後、重い荷物を小屋に置き山頂を目指す。同行したまゆみちゃんは、小屋に残るという。ちょっと心配だが、疲労回復のため彼女は一人で休息することとなる。小屋から山頂まではコースタイムで30分。途中、鳥や花の観察をしながらだから軽く2時間はかかるかもしれない。ちょっと雲が多くなってきたが、雨が降る雰囲気ではない。

 小屋の裏の針葉樹の森を抜けるとガレ場になり、ところどころに草原が広がる。15年前に来たときには、この時期、ギョウジャニンニクのネギボウズ(花)がきれいだったが、見られない。どうやらシカの食害にあっているらしい。
女峰山頂(2,483m)  山頂間近なガレ場の上部でオノエランをみつける。無機的にも見える岩の間に咲く清楚な白い花弁が美しい。少しずつ山頂に近づく。コケモモの花も咲いている。さらに登るとダケカンバの根元にミヤマダイコンソウの黄色い鮮やかな花が見えてきた。ハイマツも出てきた。いよいよ山頂だ。

山頂から男体山方向の尾根。ハイマツの緑が鮮やか。  山頂は雲の中だった。アマツバメが鋭い羽音で出迎えてくれる。ときおり雲の切れ目から稜線沿いのハイマツと赤い岩肌がみえ、山頂の南斜面にはホソバイワベンケイとミヤマダイコンソウ、そして目立たないけれどイワヒゲの花が咲く。少し休憩してまた小屋に戻ることとする。登る途中は気付かなかったハクサンチドリの美しい花を見つけた。

ニョホウチドリの咲く草地  3時半ころ小屋に戻り、まだ時間があるので、今回の目的のひとつであるニョホウチドリを探しにいくことになる。でも15年ほど前の記憶が頼りの場所なので、見つける自信はない。
 下から湧きあがる雲が流れる急斜面の草地のニョホウチドリは健在だった。ギョウジャニンニクのようにシカの食害でその存在が心配だったが、5〜6株ほどが独特の美しい花を見せてくれた。ニョホウチドリの学名は Orchis joo-iokiana といい、種名のjooは植物愛好家の城数馬、iokiは日光に住んでいた明治の洋画家、五百城文哉のことだ。日光市内にある東京大学付属植物園を造成する頃に、牧野富太郎と共に日光の山野を歩き、ニョホウチドリなどを発見したそうだ。ここでは、他にハクサンフウロ・ユキワリソウなども見られた。

焚き火を囲んで夕食の準備  17:00小屋に戻る。小屋には今晩の宿泊者が少しずつ到着してきた。この頃になると青空が戻ってきた。とても過ごしやすい快適な気温だ。
 小屋の前が広場になっていて、そこで焚き火をすることになった。火を囲んで全員で夕食の準備。それぞれがコンロで調理する。こけこっことまゆみちゃんのメニューは山の定番、レトルトカレーだ。同行の北米帰りのご夫妻がビーフジャーキーやナッツを差し入れてくれる。酒好きな数人は日本酒、ワイン、焼酎、ウィスキーとそれぞれ違うものを持参してきて皆でわいわいと楽しい夕食であった。
 そのうち辺りは暗くなり、ウィンドブレーカなしでは寒い。焚き火の暖かさが心地好くホットウィスキーが何よりおいしい。いつの間にか小屋には大勢の人が泊まることになり、結局、小屋の定員を上回る30人ほどが同じ屋根の下で一夜を共にすることになる。
 明日朝6:00にそれぞれが山頂に集合し、皆で朝食をとることになる。七夕の星空が気になりながらも21:00頃就寝。


小屋上のガレ場から山頂方向 第2日目(7月8日)
 4:30起床。ちょうど日の出の時間。山頂にはもう朝日が赤く当たり始めている。今日も快晴だ。
 小屋のまわりではルリビタキがさえずり始め、なぜかミソサザイがオオシラビソの梢でさえずっている。一面の雲海が広がり、下界はどうやら雲の下のようだ。次女も珍しく早起きしてきた。
朝日を浴びる男体山  快晴の山頂を目指す。まゆみちゃんも今度は同行する。昨日の夕方と違って、快晴で湿度が低い空気を通して、山頂への道から男体山や奥白根山がくっきりと見えるのはもちろん、関東平野は一面の雲海の下にある。
 昨日見たハクサンチドリやオノエランを観察しながら快晴の空の下、山頂についたのは5:45。山頂からは、さきほどの一面の雲海の上に東には鶏頭山、那須連山が、西は小田代原や戦場ケ原、奥白根山、北にははるかに尾瀬の至仏山や燧ヶ岳、会津駒ヶ岳など素晴らしい眺望が開けている。

 山頂でメンバー全員がそろい、朝食。コーヒーがおいしい。
 山頂周辺では、カヤクグリ・イワヒバリが見られ、遠くの尾根にはホシガラスが数匹ハイマツに止まっている。初めて見るホシガラスに感激。
山頂からの那須連山  ハイマツの尾根は空気・景色ともに快適で、天上の楽園のような場所でとても快適な時間を過ごすことができた。ハクサンチドリを探しながら、小屋に下山。8:40小屋戻り。

カヤクグリをねらって  9:20名残惜しい唐沢小屋を出発し下山。途中水場でズダヤクシュ・クロクモソウを観察しルリビタキの声を聞きながら下山。途中、ジュウイチが昼間から枯れ木に止まり鳴いている。いつも夜中に飛び回りながら聞く鳴き声しか知らなかったので、その声の主に感激。
11:50馬立着。そこの林道のふちで昼食。

 短い時間だったが、天候にも恵まれ、素晴らしい眺望と花々や野鳥をゆっくりと観察でき、至福の時を過ごすことができた。


山頂から西方向のパノラマ
女峰山頂から西方向のパノラマ(64KB)



ガレ上部から唐沢小屋方向

ガレは滑りやすい

山頂直下から男体山


クロクモソウ ハクサンシャクナゲ ベニサラサドウダン ミツバオウレン ゴゼンタチバナ
マイズルソウ ミヤマカラマツ モミジカラマツ ユキワリソウ ニョホウチドリ
ハクサンチドリ コケモモ オノエラン ミヤマダイコンソウ ホソバイワベンケイ
タカネニガナ オオシラビソ トウヤクリンドウ ミネザクラ ミヤマハンノキ