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ダミーヘッドマイク製作記録
−バイノーラル録音でより自然な音を記録する−

リンク切れなどを修正  9/ 4 2011
初 稿  9/13 2009


■人間の五感の素晴らしさ
 森の中でキビタキの鳴き声を聞いている自分を想像してください。
森の中のキビタキ  そこでは、キビタキの美しい鳴き声だけではなく、目に入ってくる緑の木々、空気の匂いや風が肌を通り抜ける感触まで、五感をフルに働かせて感じる、さまざまな情報があります。そして我々はその多くの情報を無意識のうちに取り入れ、自然全体を感じ、それがキビタキとそれをとりまく環境として、経験と記憶に残します。
 その内、音だけをとっても、周辺にはキビタキの鳴き声だけではなく他にもたくさんの音が聞こえているはずです。それは、頭上から聞こえてくる風が木の葉を優しくなでるサワサワという音であり、足下に流れるせせらぎの音や虫の声であり、これら周りの音も無意識のうちに聞いています。
 音だけで自然環境全体を記録することは不可能なことです。でも人間はわずか二つの耳でその音を聞いてその環境を感じます。いわば二つのマイクともいうべき「耳」から入ってくる音情報は、目をつむっていても頭上からの音、足下からの音、地面の枯葉の上を歩く昆虫のカサカサという音など、どの場所からどの方向からどんな音が聞こえてくるのか、その距離はどのくらいなのか、そしてその空間の広さまでも想像することができます。
 もっと身近な例で言えば、例えば、部屋の隅にあった花瓶が落ちて割れたとき、我々はその花瓶がどの方向にあり、花瓶に何が起こり、そしてその部屋の広さですら、目をつむっていても掌握することができます。花瓶の方向は、部屋の上下左右の壁から反射する音、直接届く音、そしてその音が左右の耳に到着するとき、微妙な時間差や音質の違いが生じるために方向を判断できます。また、ガシャンと割れた音はこれまでの経験から固い物が破壊したときに出る音であることを経験的に知っています。そして部屋の広さは音の残響の長さや左右の耳への時間差などの情報から、これまでの経験値により脳が判断するのです。
 このように、人間はわずか二つの耳で音の上下左右、さらに前後の位置関係を認識できるばかりではなく、空間の認識すら可能です。これは人間の頭や顔、そして耳の構造により、左右の耳で微妙に異なる音を聞いているだけではなく、微妙な左右の音の違いを脳が認識して、これまでの経験と照合し、音の位置や空間のボリューム感などを特定しているのです。

■音楽CDの録音は
 音楽CDは2チャンネルのステレオで収録されています。これは複数のマイクを使い、マルチチャンネルで録音したものを2チャンネルにミックスダウンしています。ビートルズなどのちょっと古い録音のCDは、例えばギターは左チャンネルから音が出て、ベースは右チャンネル、ボーカルはセンターから聞こえるようなものがあります。当時は、モノラルの音源の音量を左右で差をつけ、ギターは左チャンネルの音量を大きくし、ベースは右チャンネル、ボーカルは左右同じといった具合に、左右のスピーカーから出る音量により音像を定位させていました。でもこれはステレオ録音といいながらも単に音量だけの差で左右を振り分けているにすぎず、立体感を出すために開発された録音技術である本来の「ステレオ」ではありません。スピーカーで再生している分にはスピーカーの位置から音が聞こえてくるので違和感はありませんが、ヘッドフォンで聞くと、頭の中に音が定位します。つまり自分の頭の中からギターやボーカルが聞こえてくるのです。
 しかし、実際我々が二つの耳で聞く音の方向や位置は、頭の中から聞こえてくることはありません。どの音がどの方向から聞こえてくるかは、もちろん左右の耳に入ってくる音量の差も情報の一つだと思いますが、周辺から反射してくる音や前出の顔や耳の形状など複雑な要素が加味され脳の中で決定されます。その結果、当然のこととして、脳の中で音が定位することはなく、外からの音としてちゃんと位置を認識することができます。
 最近のCDの多くは、この不自然さをできるだけ解消するため、電気的な加工(リバーブなど)をして広がり感を人工的に加味したり、ワンポイントステレオマイクで録音した音をミックスするなど、基本的にはスピーカーで再生したときに不自然さを感じないよう配慮して制作されています。

■バイノーラル録音−自然の音をそのままに聞きたい−
 人間の二つの耳で鳥の声や水の音など自然音を聞くとき、前にも書きましたように、顔や耳を通してやってくる音をこれまでの経験も加味しながら聞いているから、立体感や空間をも認識することができます。  これを録音という形で固定して少しでも自然の中にいるのに近い音を再現するため、人間の耳の位置、さらに言えば鼓膜の位置に高性能なマイクを左右両側に配置し、録音して、ヘッドフォンで再現すれば、録音とはいえ、耳で聞いたような臨場感あふれる音が再生できるという考え方が生まれました。
 この考え方による録音方法をバイノーラル(binaural)録音といいます。bi-aural、 二つの耳という意味だそうです。とてもシンプルな考え方により確立された録音技術の一種です。

 でも実際、鼓膜の位置にマイクを設置することは不可能です。そこで、古くからダミーヘッド(そのままの意味)という、人間の頭部そっくりのモデルをつくり、その両耳にマイクをセットして録音する方法が試みられてきました。この録音は、リアルに臨場感豊かに音を再現するためにはとても有効な方法です。
 現在でもいくつかの会社からダミーヘッドが販売されています。ドイツ・ノイマン社製のダミーヘッドはプロに使われているようですが、小型車1台が買えるくらいの値段で手が届きません。これは日本でも販売されています。また、2011年5月に発売された純国産?らしい、ダミーヘッド サムレックType2500Sは、なかなか本格的なつくりになっていて良さそうです。でもこれも20万円、ふぅ。音響専門メーカらしいところが、自作派のために耳介モデルのみも販売していることです。他にも、ビデオカメラなどで臨場感ある音声録音をするため、小型のダミーヘッドマイクも販売されています。これもまだまだ高いですね。

 このようにダミーヘッドは一様に高価で研究機関やプロが業務用として利用していることが多く、我々アマチュアには高価でなかなか手が出せません。
 そこで、ダミーヘッドは使わずに、もっとかんたんな方法でバイノーラル録音ができるマイクが販売されています。ローランドバイノーラルイヤホン CS-10EMアドフォックス BME-200SANYO HM-250THE SOUND PROFESSIONALS SP-TFB-2 などです。これらはいずれもヘッドフォン、イアフォンと同じように自分の両耳に装着し、イアフォンの部分がマイクになっているタイプです。つまり自分の頭をダミーヘッドならぬリアルヘッドとして耳の部分にマイクを差し込み録音をします。


■'こけこっこ'のバイノーラル録音の試み
THE SOUND PROFESSIONALS SP-TFB-2  Nikko Todayの管理人、こけこっこは、自然のなかで聴くさまざまな音をリアルに再現したいと考え、2005年くらいからバイノーラル録音を試みています。このコンテンツ、Sounds の音声ファイルに のマークがついているのがその録音です。
 とはいっても高価なダミーヘッドは買えませんので、とりあえず前記後段に記載した、リアルヘッド(自分の頭)の耳にマイクを取り付けて録音しました。使ったマイクは、THE SOUND PROFESSIONALS SP-TFB-2(右写真)です。当時、選択できるほどこの手のマイクは出ていませんでしたが、このマイクは耳道に差し込むタイプではなく、外耳の形状にあわせた小型のマイクだったので装着感もより自然だろうと思ったからです。装着すると左下の写真のようになります。通販で送料入れて1万円ちょっとだったと記憶しています。
THE SOUND PROFESSIONALS SP-TFB-2  このマイクを使っていろいろな動物の声を録音しました。やはり効果はあり、とても自然な感じで臨場感あふれる録音ができて大いに満足しました。その中でもとくに効果が発揮できた録音を少し紹介します。

コマルハナバチの羽音
(頭上に咲くトウゴクミツバツツジの蜜を求めてコマルハナバチが飛んできたでした。頭上で羽音が回り、右奥に飛んでいくのがわかり、ヘッドフォンで聴くとつい手で払いのけたくなります。)
フクロウとヨタカの声
(薄暮の日光の山中です。ヨタカとフクロウの声がエコーして広がり感を味わえると思います。)

 しかし、このマイク(録音方法)には大きな問題点がありました。
 一つは、音を立てずにじっと静止していなくてはならないことです。耳に装着するので注意しないと呼吸音やつばの飲み込むゴックン音が録音されてしまうため、録音中は呼吸を整えて静かに呼吸をし、つばが出てきたら決して飲み込まずに口から垂れ流し、絶対くしゃみなどはしない、という強い決意と忍耐が必要です。じっとしているのは簡単だろうと思っていたのですが、実際にじっとしようと思ってもなかなかできないものです。これはかなりの苦行で、5分が限界でした。皆さんもぜひお試しください。また、同じ場所でじっとしていなくてはならないため、蚊に刺されても叩いたりできません。じっとかゆみに耐えるのです。そのようなことから長時間録音には向きません。
 二つ目は、生の音がとても聞こえにくくなることです。マイクが小さいとはいえ、ちょうどマイクの位置が耳道をふさぐ形になるため、ちょうど耳栓を半分しているような感じとなり生の音が聞きづらくなります。
 三つ目は、風に弱いことです。マイクには小さな風よけのスポンジがついていましたが、これを装着すると耳に違和感があり長時間つけていられません。かといって何もないと露出したマイクにそよ風程度であってもボコボコと風キリ音が録音されてしまいます。毛糸の帽子を深くかぶるとか、頭からストッキングをすっぽりかぶるか、などの対策が必要です。もっともストッキングをかぶってフィールドにいたら、それだけでかなりあぶない人ですね。
 逆に思わぬメリットもありました。それは、対人間の声を録音するとき、相手に警戒されないということです。誰も耳にマイクを入れているとは思いません。ちょっと目にはイヤフォンで音楽を聴いているんだろうと思われます。だから普通に会話しながらそれを録音しても相手は警戒しません。もっとも、イヤフォンをしたままで会話することになりますから、人間性を疑われることにはなりそうです。

■そして、ダミーヘッドマイクの制作に
 このように、マイクを自分の耳にはめ込んで、2005年から野鳥などのバイノーラル録音を続けてきましたが、2007年ころから片方のマイクに大きなノイズが入るようになってしまいました。また、前記のように長時間録音ができないことや静止していなくてはならないといった欠点を克服することができず、2008年春を最後にこの方法での録音はやめました。
 以前からダミーヘッドを利用したバイノーラル録音にはたいへん興味があり、かといって高価な製品を買うこともできず、ダミーヘッドは何を使ったら良いのか、また重要な耳をどのように再現するかなど、ネットで情報集めをしていました。
 なかなかいい素材が見つからなかったのですが、最近になって友人が「耳」モデルをネットで見つけてくれて、一気にダミーヘッドを作ることとしました。以下、その製作の記録です。


1. ダミーヘッド本体

 まず、ダミーヘッド本体です。ネットでは商品ディスプレイ用の発砲スチロールの頭部をくり抜いて作った人もいましたが、ネットオークションで見かける「ヘアマネキン」を利用することにしました。これは美容師を志す方がヘアカットの練習に使う頭部マネキンだそうです。


ネットオークションで500円でした。
平均的な日本人の頭部の大きさと比べると90%くらいの大きさでちょっと小さめですが、気にしないことにしました。ヤンキーなのが気になります。

事務用ハサミで散髪し、さわやか甲子園にしました。虎刈りです。
ヘアカットの練習用だけあって、頭髪は良くできています。表皮に極小の毛穴が開いていて、そこから1本ずつ毛が生えています。
耳がついていますが、この耳は形状がデフォルメされていて使えそうもありません。
スポーツ刈り風とはいえ、毛が生えているのはあまりにもリアルなので、この後、ソリをいれました。

専用の耳(この後説明)の大きさに合わせて、もともとついてた耳まわりを切ります。頭部手術をしているような気分でした。


2. 耳モデルの加工

 バイノーラル録音でたいへん重要な要素と考えられる、「耳」をどうするかは大きな課題でした。ネットで探しても医療用のモデルで耳道までついた2倍くらいのスケールの巨大なものくらいしか見つからず、しかたないので自分の耳の型をとり、シリコンで再現しようかなどとも考えていました。
そんなある時、友人にダミーヘッドを買った話をしたら、なんと、鍼灸の練習用の実物大の耳モデルをネットで探してくれたのです。この発見はうれしかった! この耳のおかげで一気にダミーヘッド製作が進んだともいえます。
 販売していたのは、人体模型などを販売している、Nihon 3B Scientific というところで、この耳モデル、なんと練習用の鍼までついてくるという代物。両耳で1万円を超す値段でしたが、自作することを考えれば決して高いものではありません。


到着した耳をみてびっくり。その大きさにです。この写真のように、もともと小さめのヘアマネキンに巨大な耳が! 実物大ということなのですが、明らかに大きな耳です。説明書を見たところ、どうやらドイツ製らしく、ドイツ人の耳は大きいんだ、と言い聞かせてこれで良しとしました。

この耳、大きさ以外についてはたいへん良くできていて、表皮の質感も皮膚にかなり近いし、何よりもさわった感触はまるで他人の本当の耳を触っているかのような弾力を持っています。何かいい予感がします。

仮止めしてみました。あきれるくらい巨大耳です。笑わずにはいられません。
そして、このダミーヘッドをもってフィールドにいくことを考えると憂鬱になってきます。

正面から見ると異星人そのものですね。きっと集音効果が高いですよ。

この「耳」に耳道をつけるので、音の通り道となる穴をあけます。マイクが直径6mmなので、同程度の大きさの穴です。

 
3. マイク

耳の穴に埋め込むマイクは、秋葉原の秋月電子通商から購入しました。プラグインパワーで給電する必要がある、エレクトレットコンデンサー型のマイクです。直径が5mmから12mmくらいまで何種類かありましたが、自分の耳道の大きさやメーカーの信頼性などから、直径6mmのパナソニック製(WM-61A)のマイクにしました。なんと、2個で200円でした(これ以上高価なマイクはない!)


直径6mmのマイクの背面に+−の端子がついていますが、このハンダづけには苦労しました。なんせ小さいマイクに極小の両極ですから、慣れない作業をクリアーして、なんとかハンダづけ成功。

ケーブルはステレオミニジャックが一端についているシールド線を流用し、もう一端にマイクを取り付けました。
裸の状態で録音機に接続し録音してみましたが、かなり感度が良く、録音機側の入力ゲインの切り替えを周波数も-20dBにしてレベル合わせをしてちょうど良いくらいです。録音の周波数分布を確認したところ、低域から高域までよく伸びているようです。


4. 耳道の製作

自分の耳に綿棒を入れたり、1/5スケールの子供向け教材の耳道模型をオークションで購入し、鼓膜の位置を確認しました。その結果、鼓膜は外耳から数センチ奥に位置していて、かつ外耳から斜め上方向に耳道が延びていることがわかりました。
いろいろと考えたのですが、できるだけリアルな音にするため、耳道をつくり、鼓膜の位置に近いところにマイクを埋め込むこととしました。しかし、この耳道には後に大きな誤算があることがわかりました。(後述)

耳道は外径22mm、内径13mmの塩ビパイプを耳道と同程度の長さに切断し、その中をシリコンコーキングで埋め、中央部に直径6mmの穴を開けることとしました。そしてその耳道をシリコンコーキングで耳に接着し、マイクを埋め込む計画です。

塩ビ管を約20mmの長さに切り取り、シリコンコーキングで埋め、中央部に直径6mmの穴を開けるため、直径6mmのドリル刃を中央部に差し込みました。これが耳道になります。

シリコンコーキングは安価でどこにでも販売されている建築用の素材です。セメダイン社製を利用しましたが、密着性が高く、ある程度の重さもあり、最終的には硬化せずにちょうど皮膚のような弾力をもって安定するので、吸音性や、左右のマイクが拾う音がダミーヘッド内で干渉を防ぐなどの面から耳道にはちょうど良い素材と考えました。このシリコンーキングは今回の製作のさまざまな場面で利用することができました。


5. マイクケーブルの通り道の加工


マイクケーブルの通り道となる穴を開けます。耳道の外径が22mmなので、直径21mmのドリルでヘアマネキンに穴を開けます。その際、前記のように耳道がちょっと上向きになるようにしました。
それにしてもドリルで頭に穴を開けるというのは、かなりシュールな体験です。

写真には写っていませんが、両耳の位置に穴をあけた他、首の付け根から頭の方向に同じように穴をあけ、このようにマイクケーブルを通します。


6. とりあえず試しに録音してみる
 耳道はまだ固まっていないので使えませんが、とりあえず穴も開けたし、マイクも通したので、完成を待ちきれずにとにかく音が聞きたくて、右の写真の状態で、耳にあけた穴に直接マイクを差し込み、仮止めして録音してみました。耳道はまだ使っていません。
 録音した結果、なかなか臨場感のあるいい雰囲気でした。夜の録音なのでご近所の方に見つからないようサッと録音をすませました。パトカーが巡回してきたら間違いなく職務質問の対象になりそうです。人気のないところで怪しげな頭部を手に、おどおどしながら夜道を歩いているのですから。

7. 「耳」に耳道を取り付ける

耳道のシリコンが固まったら、「耳」に取り付けます。

耳道となる短い塩ビ管に充填したシリコンが固まったら耳に取り付けます。その際、ここでもシリコンコーキングで接着します。
耳の穴がふさがらないよう、直径6mmのドリルの歯を差し込んでおきます。

シリコンが固まったあと、ドリルの歯を取り外すとこのような感じです。実際の耳道は頭の内側に向かって上向きになっているので、塩ビ管を少し斜めに切断し、角度をつけました。

耳道の奥、ほぼ鼓膜の位置と思われるところに、マイクを取り付けます。

マイクを取り付け、ここでもシリコンコーキングでマイクを固定します。共振を防ぐためできるだけ厚くシリコンを塗ります。


8. ダミーヘッドに耳を取り付ける


マイクと耳道付きの耳をダミーヘッドに取り付けます。

耳をしっかりと頭部に固定するため、耳の付け根に50mmの木ねじを差し込み、耳の周辺を黒いシリコンコーキングで埋めます。頭に木ねじを差し込むという、シュールな体験を再び味わいます。


9. ダミーヘッドに開けた穴をふさぐ


両耳の部分と首の底面にコードを出す直径21mmの穴を開けましたが、空洞があると共鳴する恐れがあるので、この穴から空洞に砂を充填します。近くの川からいただいてきました。

砂を充填したら、最後にシリコンコーキングで穴をふさぎます。

底面についている黒いものはダミーヘッドを三脚に固定するためのものです。ストロボ取り付けのアダプターが余っていたので流用しました。底面には木ねじで固定しました。



10. いよいよ完成・・・・・か?


とりあえず完成し、フィールドでできるだけ目立たぬよう、そしてできるだけ不気味がられないように、黒つや消しで塗装します。耳に塗装をすると耳の質感が損なわれるので、耳だけ肌色です。でもやっぱり不気味です。

どの角度から見ても不気味です。やはり耳の大きさが異様です。


11. 録音してみる

 とりあえず完成したので、早速録音してみました。耳道まで取り付けたので、さぞリアルな臨場感で録音されるだろうと期待がふくらみます。
 夜しか時間がとれなかったので、ちょうどこの時期、こけこっこ家の周辺でよく鳴いているエゾツユムシを録音してみました。

  エゾツユムシの声 (mp3 128Kbps)

 ところが、録音した音を聞いたところ、かなり違和感があります。ちょうどAMラジオを小さなスピーカーで聞いたときのように、キンキンした音なのです。録音した音の周波数分布を確認したところ、右の写真のように、両耳とも2,500Hz付近にノイズの山があります。
 最初に耳道をつけずに録音したときはこのようなことがなく、ごく自然に録音できたのに、耳道をつけて録音した音がこのようになってしまうとは、想像もできませんでした。耳道は、よりリアルな臨場感を得られるよう、人体に近いと考えられる形で取り付けて、さらに共鳴や共振しないよう砂で空間を埋めたり、シリコンコーキングを十分に充填したのに、なぜか理由がわかりません。
 この音を音声編集ソフトで中域のピークを下げて聞くと、まあ、そこそこの音になります。でもいちいち面倒だし、生の音のバランスが崩れているのはとても気になります。
 結局、原因がわからないのですが、前回の実験段階との差は耳道の有無だけなので、耳道が原因の可能性が高いと思われます。
 耳道を取り付けた段階で試し録音をしておくべきだったと思っても後の祭り。耳道を外す必要があると思い、改造することとしました。


12. 改良し、いよいよ完成!

やはり耳道が悪影響を及ぼしているようなので、耳道を外すために耳を分解し、改良することにしました。

 せっかく取り付けた「耳」ですが、録音結果が満足いくものではなかったので、耳を取り外します。そして、今度は耳道はつけずに、マイクを耳の穴に直接取り付けることにしました。
 再度ダミーヘッドに耳を取り付けるときは、共振と共鳴を避けるため空間ができないよう、シリコンコーキングをたっぷりと入れました。

 耳道を外し、耳にマイクを直接取り付けて、再度シリコンと木ねじで耳を固定します。そしていよいよ完成です。

 前回は黒つや消しで塗装しましたが、真っ黒だとかえって目立ちそうなので、今度はオリーブグリーンで塗装しました。まだ不気味です。


 こんな感じです。シリコンコーキングの塗り方がかなり雑なのがわかってしまいますね。

 耳道を外したので、これまで奥にあって見えなかった小さなマイクが見えるようになりました。


13. 完成版で録音してみる

 いよいよ完成しました。
 次女が、このダミーヘッドをなぜか「たけし君」と命名。女性のダミーヘッドの場合は「せつ子」なんだそうで。オリーブグリーンのたけし君を外に連れ出し、早速録音してみます。
 ダミーヘッドに耳道が着いてたときの中域のピークはなくなり、ほぼフラットな周波数分布となりました。 D50内蔵マイクとダミーヘッドを比べるため、同じ位置で同じような音源を録音しました。必ずヘッドフォンで聴いてください。

ツズレサセコオロギの声 (mp3 128Kbps /638KB)
 前半20秒がD50内蔵マイク(マイク角度120°)、後半20秒がたけし君ヘッドによるバイノーラル録音です。聞いた結果、定位状況はそれほど変化を感じません。むしろダミーヘッドのマイクはノイズが目立ち、逆にD50内蔵マイクはすっきりとしたいい音です。

バイクの音 (mp3 128Kbps /867KB)
 同じく前半がD50内蔵マイク、後半がダミーヘッドです。
 内蔵マイクは音像が脳内に定位する感じですが、ダミーヘッドは脳内には定位せず、より自然に聞こえるような気がします。でもS/Nや繊細感はD50内蔵マイクにかないません。

カンタンの声 (mp3 128Kbps /530KB)
 カンタンは小さな秋の鳴く虫。すべてダミーヘッドによる録音です。
 正面1mくらいの距離で録音しましたが、残響があるような環境ではなかったせいか、ダミーヘッドの効果はあまりありません。

蜂の羽音 (mp3 128Kbps /188KB)
 カンタンの録音中、ダミーヘッドに蜂が飛んできました。ダミーヘッドの近くでホバリングして、顔の前を通って右奥に飛んでいきました。
 音源が移動するような録音の方が、ダミーヘッドの効果を実感できるようです。

ネズミ?の足音 (mp3 128Kbps /163KB)
 雲龍渓谷の夜、山の中にダミーヘッドを置き、録音していみました。
 ネズミらしき足音が足下でカサカサと聞こえます。こういう録音もバイノーラル録音に向いているようです。

ニホンジカのラッティングコール (mp3 128Kbps /277KB)
 同じく、雲龍渓谷の秋の夜です。発情期をむかえたニホンジカの♂が鳴き、山に響きます。左下の方向から聞こえてきます。

カラの群れ (mp3 128Kbps /1,432KB)
 雲龍渓谷の朝、カラの群れがダミーヘッドの頭上の木に飛んできました。




 以上が、ダミーヘッドの製作記録です。長文のおつきあいをありがとうございました。
 最後にお願いです。もし、日光の山で頭部を持った人にあっても「変態」だなんて指をささないでください。それはきっと'こけこっこ'です。


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